10周年

止別


出発地の知布泊でピーピー事件が起きた。
未明、ラジオのチューニングに似たピーピーという音が、
テントの外から聞こえてきた。
もちろん。近辺には民家は無いし人の気配も全く無い。
国道沿いにリヤカーを駐車して、ガードレールに結びつけ、
そこから50メートルほどの獣道を抜けて海に出たところ。


夜になって一度は寝付いたが音で目が覚めて、
しばらくそれが気になって眠れない。
人がラジオを聞いているものと思ったが、人が居るわけが無い。
人が居るわけが無い。
というのは自分の願いだったことに気づき、顔が青ざめる。
この時間に、こんなところに、居て欲しくないし。
ラジオとか聴いてて欲しくないし。


音の主にこちらの存在を気づかれてはいけないと、
勝手にからだが判断して寝返りも打てない。
時間を確認することも出来ない。
隣で寝ている忠を呼ぶことも出来ない。
しばらくじっとしながら、音を聞いていた。その音は今でも忘れない。
ラジオではないけど、一定の響きを持った機械に近い音。
音の発生源は10メートル以内。
むしろ自分らに向けられて発せられているかのよう。
「ピー」の尺は3秒程度。それを一度に2回続け、
そのセットがおよそ15秒間隔でループする。
1セットずつが機械のような法則を持っているわけではなく、
なんとなくゆらぎを持ってる感じ。


捨てられたラジオ説
汽笛説
鳥類説
小動物説
昆虫説
電波干渉説
宇宙生命体説(有力)


仮説を考えているうちに辺りが明るくなってきて、
音はいつの間にか消えていた。
この事件は未だ解決していない。
実は忠の特殊なイビキだったなんていうオチは無い。
起きてから、忠に音のことを話すと、
自分も恐怖で体を動かすことが出来なかったという。
彼も多くの仮説を立てたが、
ぼくの仮説とたいして変わりは無かったそうだ。


この日は伝説の道を通過している。
ひたすらと続く砂利道を一気に歩き通し、
川を渡り、砂浜を強引に突破したのだった。
ちなみにリヤカーを砂浜で走行させるのは無謀だ。
車輪が砂に食い込み、足も砂浜にとられる。
全身を前45度に傾け、ワシのマークの大正製薬のCMの様相である。
どこからあんなパワーが出ているのか。
マルちゃんダブルラーメンしか食ってないくせになあ。