10周年

1994、7、1 大平洋三陸

「サブリナ」の船内である。
濃霧の中を航行していた。

日記帳のノートの最初のページの欄外には
「オホーツク600km ズシャーン!!」
と汚く堂々と書いてある。

あのプロレスのズシャーン!!である。
キンコンカーンが出てくるやつだ。

モンゴリアンチョップ

あれほど笑えたゲームはないな。
ゲームなんてのはあれぐらいで必要にして十分だろう。
とにかくこれから始まる歩きの旅を前にして
我々はそればっかやっていたのだ。

それでも船内には旅人がちらほらいて、鉄パイプやらわけのわからないものを持っていた我々に興味を示していた人がいたような気がする。

リヤカー君はこのときからもう何かを発していたのだろう。
ただ僕らにはそのことにまだ何も気付いていなかった。

根室から稚内まで本当に歩けるのか。どんな旅になるか。
あまりそんなことは考えていなかったと思う。
とにかく行こう。
そんな感じで船内にいるのだ。

サブリナ、ブルーゼファーは無くなっちまった。
その影響でだいぶ道東の旅人が減った、と小清水の熊ニイが言っていた。
今、僕らが18歳で、同じことを企んでいたらどうやって根室に行くんだろう。

スカイメイト飛行機で釧路が有力だろうな。
そうしたら当然なんの啓示もないわけだ。
あの荷物はたぶん宅配便で送るだろうし、ズシャーン!!などあるわけない。
ズシャーン!!なしにあの旅を始めるなんてなんだかさみしいものだ。
そう考えるとものすごく貴重な船だったわけだな。