千葉茂樹氏について

鳩を見ると、今でも必ず彼を思い出す。

春になると彼は日本に帰ってくる。そして僕たちと飲む。
安曇野に行って山小屋で仕事をする。
登山者のために、イワナを焼いたり、
布団を敷いたり、飯を作ったりするらしい。
秋になると下山して、ヨーロッパに行く。
年末には彼からエア・メールが来る。きれいな絵はがきだったり、
わけの分からない用紙だったりする。
ルーマニアやトルコやチェコやなんかそのへん。
それをくりかえして、彼は定職に就かない。
トルコはインフレで通貨の単位がおかしいとか。
パンに鯖を挟んだ鯖パンをつねに食うとか。
チェコは人形劇屋さんが盛んだとか。
それはシュワンクマイエルの影響によるものだとか。
オランダの温泉でホモに誘われたとか。


「今日は朝の9時から呑んでたぜ」
自慢げに言う。
小学生が、ざりがにをたくさん取ったときと
同じような笑みだと思った。


自由。


しあわせそう。目がぎらぎらしてる。
「いまなにやってんの」
と訊かれ説明すると、
「ふうん…」興味なさそう。
無くても生きていけるし。
なにやってんの。


彼に会ったのは7年前。沖縄。伊江島
伊江島に行ったら、居た。
忠と3人でしばらく遊んだ。
正確に言うと4人だ。
女の子をひとりナンパした。
というか来た。というか居た。
毎日、焚き火の番をした。
本を読んだり、読む本が無くなると、
包丁を収めてある新聞紙の記事を読んだり、
缶詰の内容表示を読んだりした。
海に潜って知らない生物を捕獲して食ったり、
常に、鳩を猟ろうとしたりして過ごした。


興味の中心は鳩だった。
食欲だったんだよ。
鳩と、俺たち。
今は違う星に住んでる。